プラス1℃の恋人

【8】勝負は夜景の見えるレストランで

 ちょっと電話をしてくる、と千坂が席を外した。
 なんとなく気まずかったので、気持ちを立て直すのにちょうどいい。

 ふたりの関係はこれからどうなるのだろう。

 窓ガラスに映った自分の顔は、なんだかみじめな顔をしている。


 千坂が席を外しているあいだに、最後のデザートが運ばれてきた。
 クラッシュされた透明なゼリーの上に置かれているのは、果物ではなく、小さなバラの花だ。

 主任はまだ帰ってきそうにないし、先にいただいてようかな。

 青羽がバラの花を脇にどけようとすると、「そのままお召し上がりください」と横から声が聞こえた。

 はっとして顔を上げる。
 そこには、スーツ姿のきれいな顔をした若い男性が立っていた。

 パティシエ?
 いや、パティシエはスーツなんか着ない。

 ――私に話しかけたんだよね?

 齢は30半ばくらいか。
 どこかで見たことがある顔だな、と思ったが、誰だったかまったく思い出せない。
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