世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第三話 金色の苑 再会


十年後。

ソウォンは見目麗しき女性に成長していた。
母親(コ・ヒジン)は漢陽でも一、二を争う美貌の持ち主である。
ソウォンの美しい容姿は母親譲り。

結婚適齢期が十五歳から二十五歳ほどなので、十九歳のソウォンはまさに結婚適齢期の娘である。
しかも、由緒ある名家な為、縁談話は後を絶たない。
けれど、当の本人は『まだしたくない!』の一点張り。
無理やり縁談を進めようものなら、どんな事をし出すか予測不能な為、両親はお手上げ状態なのだ。

そんなソウォンは幼い頃から諸外国の書物を読み漁り、人一倍好奇心旺盛な娘に育っていた。
両班の女性は慎ましく生活するのが良いとされているのに、ソウォンはその真逆で、家にいる事が出来ないのだ。


「父上、数日の間、家を留守に致しますので」

卯時(ミョシ:午前五時から七時)の刻。
支度をしている父親に挨拶をする為、ソウォンは舎廊房(サランバン:家長が生活する部屋)を訪れている。

「駄目だと言っても聞かぬのであろう?」

父親であるジェムンは、すっかり見慣れてしまった男装姿のソウォンに溜息を漏らした。
そんな父親の心配をよそに、ソウォンはにっこりと笑みを浮かべた。

嫁入り前の娘が外出する事さえ問題だというのに、数日もの間、家を空けると言う。
だが駄目だと言ったところで、素直に聞くようなソウォンではない。

「それでは、父上。行って参ります」

丁寧にお辞儀をしたソウォンは、軽やかな足取りで屋敷の大門(テムン:表門)をくぐった。


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