溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
6.ご褒美は波乱の幕開け



 翌日、花梨が時差出勤をすると、すでに新條が残作業を終えていた。
 部長は今日も引き続き出張なので、新條が昨夜のうちにメールでトラブルと対応の内容を知らせておいたらしい。さすが、ぬかりない。

 昨夜、暗闇の中でいつもと違う様子を見せていた新條は、あの後そんな様子は微塵も見せなかった。家に帰ってから話を聞こうとしても、もう遅いからまた今度と同じ事を言って躱す。
 結局花梨は、もやもやしたまま風呂に入って自分の部屋で寝た。

 けたたましいアラーム音で飛び起きると、部屋の外に目覚まし時計が置いてあって、新條はすでに出社していた。
 いつもは一緒に朝食を摂るので、花梨が寝ていたら起こしてくれるのにギリギリまで眠らせようという配慮なのだろう。ダイニングテーブルの上にはゼリー飲料が置いてあって、「朝ご飯がわり」と付箋が貼ってあった。

 今日は野口くんも熱が下がったのでマスク着用で出社している。新條は一日ぶりの再会を喜んでじゃれついていた。
 まぁ、男子にはだいたいこんな感じなので、ゲイ疑惑がまことしやかに囁かれているわけだが。

 一緒に暮らすようになってから気付いたが、新條は花梨にもよくじゃれつく。まったくそうは見えなかったが、実は甘えん坊で寂しがりやとか? 女子にじゃれつくわけにはいかないから、男子にじゃれつくのが目立ってしまうのかも。

 そう思った途端、あの気弱な表情が脳裏をよぎる。やっぱり”今度”じゃなくて、今夜はっきり聞こう。気になってしょうがない。

 花梨が密かに決意を固めていると、野口くんが新條を突き放しながら叫んだ。さすがにうんざりしたらしい。

「いい加減にしてください、新條さん。オレが新條さんの彼氏じゃないかって噂になってるんですよ」

 まぁ、同じ部署だし。こんな風にしょっちゅうじゃれつかれてるから、そう思われるのはしょうがない。社内で雑談をする相手のいない花梨は、そんな噂は初めて聞いたのだが。

 突き放されたにもかかわらず、新條はめげずに野口くんの肩を抱く。

「言いたい奴には言わせとけばいいだろ、そんな噂。事実じゃないんだからオレは気にならない」
「オレは気になります。離れてください。まだ完治したわけじゃないんですから、風邪がうつりますよ」

 再び突き放されて、新條は渋々自席に着いた。
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