溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
2.フルーツバスケット



 花梨は出社して自席に着くと、電源を入れたパソコンが立ち上がるのをぼんやりと見つめた。

 月曜日はだいだい気怠いものだが、今日は特に気怠い気がする。土日休みだったにもかかわらず、ちっとも休んだ気がしないからだ。

 いつもなら土曜日は一週間滞っている掃除や洗濯、食品の買い出しに費やし、日曜日は用事がない限り家でのんびりと過ごす。撮りためているテレビ番組を見たりゴロゴロしながら本を読んだりそのまま昼寝したり、完全にインドア派なのだ。

 ところがこの土曜日は酔って記憶がない間にやらかしたせいで、新條と付き合うことになってデートに連れ出された。

 新條の住むマンションは会社の最寄り駅から一駅のところにあった。しかも駅から徒歩二分。おまけに本来なら家族向けであろう3LDKの分譲マンションにひとりで住んでいる。

 ベッドがやけに広いとは思っていたが、寝室には他になにもないので部屋が狭く感じない。酔いが醒めた状態で他の部屋も見て回ったが、案の定ひとりには広すぎるみたいで、モデルルームのように生活感がない。入社したときから五年間住み続けている花梨の1DKの生活感とは雲泥の差。

 あえて聞かなかったが、どこかの御曹司という噂は本当かもしれないと思った。なにしろうちの給料で、入社五年目の役職もたかだかチームリーダーな若造がマンションを買えるとは思えないからだ。

 とにかく会社に近いので知り合いと鉢合わせしかねない。なにしろ毎週誰かが休日出勤しているのだ。

 花梨と新條の勤める会社はコンピュータのソフトウェア会社で、ふたりの所属部署は既存システムの保守なのでお客様が休みの土日はたいがい休みだ。

 ところが、システム開発を行っている部署では、納期が近くなると間に合わせるために休日出勤するようになる。開発案件ごとに納期は違うので、毎週どこかのチームが休日出勤しているのだ。

 というわけで、会社の知り合いに見つかりたくないという花梨の要望により、郊外の植物園まで連れて行かれた。
 温室の蘭もバラ園のバラもきれいでいい香りだったし、それなりに楽しかったけど、インドア派の花梨にはリフレッシュというより疲労の度合いが強い。

 そのおかげで本来土曜日に片付けるはずの家事が日曜日にずれ込んだ。気づけば夕方で、のんびりするヒマはなかったのだ。


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