貴方が手をつないでくれるなら
・どんな気持ちで…

ブー、…。あ、柏木さん…。

【月曜から仕事に復帰します】

【完治されたのですか?無理をして早めに復帰される訳では無いですよね?】

【大丈夫です】

大丈夫って。本当なのかな。刑事さんて、無理して仕事してるイメージが。…これもドラマのイメージだし、解決してない事件があった設定の話の時だけど。
はぁ、でも元気になったんだ、良かった。
来週から出来るだけ並木道に行ってみる事にしよう。

「それ、眞壁さんにか?」

「あ?ああ、一応な、復帰報告のメールだ」

隣から覗き込むようにして町田が聞いて来た。…近い。

「なんか謝るってのも、今更感、満載になったな。俺だから遠慮なく言うけど。もういいような気がするんだけど。当事者は、やっぱ違うもんだろ?向こうがいいって許してくれても気が済まないもんな」

「もういいからって思ってくれてても、けじめはけじめとして、直接謝りたいんだ」

「まあ、そうだよな。来週から天気、あんまり良くないみたいだなぁ。ほら、週間天気予報、ずーっと傘マークだ。あ、曇り時々ってのもあるか」

横から携帯の画面を見せてきた。

「はぁ…わざわざ何が言いたい。つくづく運の無い男だって言いたいのか?誰に取ったって天気は同じだろうが…」

「い~や、別に~。雨だって居るかも知れないし。反対に、やっぱ、雨だから行かないって思うかも知れないし」

「だから…何が言いたい」

「別に?」

「フ、会う事、どの程度に考えてくれてるのかって事だろ?」

「さぁな」

…。

「お前、いつまでうちに居るつもりだよ」

「あ?んーそうだなぁ。もうこのまま一緒に暮らすってどうよ?俺も部屋には寝に帰るだけだし。お前も身の回りの事とか、煩わしい事が無くて楽だっただろ?」

「は?馬鹿言え。動けない最初の内だけで良かったんだ。最近はお前が用もないのに来てるようなもんだろうが。こんな狭い部屋でお前と制限無くズッとなんて…考えられない。仕事も家でも24時間ほぼ一緒って…勘弁してくれ」

今だって隣に横になってるだろうが…。

「なんかさ~、習慣づくって言うの?仕事が終わったら、足が勝手にこっちに向くんだよな。悠志の飯作んなきゃ、ってね。それに、こうして…二人で寝る事にも慣れちゃったしさ。今更独り寝は寂しいかも…」

くねくねするんじゃないよ…。

「…止めろ。彼女でも無いのに。…ゾッとするわ…」

「…だよな、ハハ。でも本当、習慣って恐いよな~。パンツも洗わなきゃって思うし、ご飯の材料だって、あれが無くなってるとか、つい思うもんな~。あ、トイレットペーパー、買っておいたからな」

もう、何気に彼女を通り越した嫁さんの域じゃないか…。でも、まあ。

「はぁ…、今回は感謝してるよ」

「ん。無理すんなよ?」

「解ってる」

「あー、今日もプリン買って来たぞ?」

「…そうか」

コンビニにも寄って好きな物を買って来る。あれこれと袋が多くなる訳だ。…俺を思ってか?…流石にそれは…。ゔー、ゾクッとする。

「ん?寒いのか?」

「んあぁ、いや違う。寝るか」

…ぅお、いかん。つい肩を抱きそうになった。…毎晩だから、癖になりそうだ。…はぁ、悪い影響だ。

「ぁ……悠志」

「お゛、馬鹿、何だ、いきなり」

身体に腕を回して来た。

「温めてあげるから…」

……はぁ。また町田劇場か。ちょとだけつき合うか。

「…そうか。もっと…こっちに来い」

背中に腕を回して強く引き寄せた。

「や~ん、悠志~。…嬉し~い」

町田は俺の胸に顔を乗せて来た。額をペチッと叩いた。

「アタッ」

「阿保~、調子に乗るな。冗談に決まってるだろうが。寒くなんかない、離れろ、コラ」

「あ~ん、悠志のいけずぅ~。やだ~」

…。はぁ…これももう暫くの辛抱だな。
< 39 / 108 >

この作品をシェア

pagetop