たとえば、父が昔から持病を抱えていたとか。
数年前から入退院を繰り返していたとか。
ウチが呪われた早死に家系で、親戚縁者に八十を超えて生きている人がいないとか――。


そういう状況にあったら、私ももう少し普通の反応を見せることができたかもしれない。


私、麻生香里(あそうかおり)、二十五歳。
幼い頃に母を病気で亡くして以来、ずっと父と二人暮らし。
そのたった一人の肉親を、二日前に亡くしたばかりだ。


父は私が勤める大手総合商社で取締役専務の地位にあり、まだまだ現役の五十三歳だった。
今まで大きな病気も怪我もなく、娘の私はもちろん……本人だって、まさかこんなに早く人生を終えるだなんて思いもしなかっただろう。


一昨日、オフィスで仕事中、父が事故に遭ったと連絡を受け、私は病院に駆けつけた。
意識不明の重体で搬送された父が緊急手術を受けている間からずっと、私の思考回路は麻痺していた。


『手は尽くしたのですが』と、執刀したドクターに説明されても、驚いて取り乱すとか、悲しくて泣き崩れるとか、そんな状態ですらなかった。


ただ、なにが起きたのかわからなかった。
なにを言われても、言葉を理解するということを頭が拒否しているみたいで。

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