銃刀法がなくなった!
第一章:始まり
2025年──銃や刀の所持が許可された時代。
医学の発達により、スーパーなどで売られている食べ物や、飲み物に含まれる成分に新たに『 healing power』、略して<HP>が追加された。
healing powerとは、治癒力という意味で、HPの配合された食べ物を摂取するだけで、ただのすり傷や切り傷などの軽いケガなら目に見えない速さで治ってしまう。
銃や刀の所持が許可されたのも、HPが世界に広まったためである。
例え、銃で心臓を狙われても、HPが自動的に心臓を集中治療するため、死ぬことは決してない。
しかし、銃を発砲した者は、死なないにせよ他人を傷付けた、もしくは傷付けようとしたことで、罪に問われる。だが、HPがまだあまり知られていなかった十年前に比べたら罪も軽く、警察もあまり動かないことが多い。今では趣味で侍を名乗る者や、本物の銃を持って撮った写真をSNSなどに載せるのも流行っている。
HPには特別な臭いや、食感はなく五大栄養素と並んで現代の家庭科の教科書にも載っている。生肉にも、野菜にも配合されているため、他の栄養素とは違い、人工的に注入されているのが一つの特徴である。
それを良く思っていない人も少なからず居て、その多くは農業や、酪農を主な職業とする者だった。
HPが広まった2025年、同時に新しい法律ができた。それは、自分の家で採ったものでも、一度HPの注入所に送ってHP配合の食物としてもらってからでないと不正な食物として扱われ、罪に問われるというものである。HPの注入所に採ったものを送るときの送料も、注入料もその農家が払わなければならないため、時には大赤字になることもある。今では、農家を辞めて転職した者が多くいるのが大きな問題となっている。


──2030年
世界が銃刀法を取りやめた年から五年。
医学の発達は、更に進んだ。
HPを作った会社<ハッピー・ライフ>は、新たに生活用水へのHP配合を決めた。
今までは、飲み物や食べ物にのみ配合されていたHPだが、お風呂に浸かったりシャワーを浴びるだけで、体内に取り込める新型のHPを開発した。
人間だけでなく、植物にも取り込めるという性質になっており、それにより、野菜や生肉へのHP注入作業の廃止が決定した。
そして少しずつ農家の増加が目立ち始めた。
それとともに、医療施設を訪れる人の減少も見て取れた。しかし、HPにも限度があり外部からの傷はすぐに治るものの、病気などには対応できないのが欠点となっている。
HPの使用が広まって五年経った今では、殺人による死者が0という世界に変わっていた。
これは、そんな時代の物語である。
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