とりまきface
一目惚れ

 そこに、彼は立っていた……


 桜井菜々二十七歳。

 菜々にはお気に入りの場所がある。
 それは、空港の展望台。
 飛行機の離陸を斜め横から飛び立つ方向へ見える位置だ。
 コーヒー片手に、何時間だって見ていられる。


 しかし、今日はその場所に先約が居た。

 どいてくれとも言う訳にいかず、仕方なく少し離れたベンチから離発着を見る……


 大きな機体が足元から込み上げるエンジン音と共に、車輪が上がり機体が斜めに上がって行く瞬間が好きだ。


 いつもの場所から見られない苛立ちに、ちらっと占領した彼をみると、菜々の興奮と同じタイミングで、彼の顔がふぅわっと和らいだ……



 その瞬間、菜々は飛行機より彼から目が離せなくなった。



 だが、その一瞬だけで、彼の表情はどちらかと言うと、冷たい印象に戻ってしまった。

 背が高く、サラサラの髪が前に下がり、スーツ姿が凛々しくて、菜々は初めての感覚に、ただ茫然と彼を見つめていた。


 これが、一目惚れだと自覚するのにしばらく時間がかかった。



 どこの誰かもわからない、彼の姿を忘れる事が出来なくなってしまったのだ…

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