おとなりさん

長い夜

【ハルサイド】

良輔に支えてもらいながらようやく家に着いた。

途中でまた頭が痛くなってきたけど、どうしても良輔には言い出せなかった。

なぜなら、今日の夜は雨が降るから。

雨が降ったら、良輔は事故のこと思い出して過呼吸を起こすかもしれない。

パニックになるかもしれない。

その時は俺が木村先生の所まで連れていかなきゃならない。

雨なんかで、頭痛なんかで、くたばってる場合じゃない。

気を奮い立たせて、なんとか部屋に着いた。

今日は良輔がどうしても良輔の部屋に泊まれって言うから、泊まることにした。

俺のこと心配してくれたんだな。ありがと。

俺も良輔のところ見れるから一安心だ。

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【良輔サイド】

帰り道だけでも大分辛そうだな、ハル。

時々俺の方にフラっと寄りかかってくる。

なんか体も熱いような気がするし。

「ハル、今日は俺の部屋に泊まってね」

俺に出来る唯一のこと、それは一晩のあいだハルを見守って看病すること。

体調崩してる時は1人だと寂しいからな。

と、

家に着いた。

「ハル、家着いたぞー。靴脱げるか?」

「ん。さんきゅ。」

ハルは自分で靴を脱ぎ始めた。

結構キツイと思うのに、無理してるんだな。

けど、ハルが頑張るなら、俺は何も言わない。

無茶してたら、その時は俺が手伝いに入るか、支えに徹する。

ずっと前から思ってたことだ。

俺も靴を脱いで、2人で俺の寝室に向かう。

ベッドを目の前にした瞬間、ハルの体の力が抜けた。

フラっ

「ハル!!」

「ハァハァハァ、ごめん、ハハハ。力、抜けちまってよぉ」

「無理すんなって!ほら、俺にもっと寄りかかっていいから!

ベッドに下ろすぞ。」

「ん。」

布団をかけてやると、ハルがフゥーーっと熱い息を吐き出した。

熱い体で頭痛も我慢して歩いてきたんだ。

流石に疲れたんだろう。

熱がありそうだから、体温計…。

あ…

俺、体温計持ってない…どうしよ…

「ハル、ごめん。ハルさ、熱あるから、測った方がいいんだけど、俺んち、体温計無いんだわ。ごめん。ハルの家の、借りていい?」

「ん…。ハァハァハァハァ…俺ん、ち、の、体温計も…いま…こわれ、てて…。」

「そっかぁ。じゃあ、買ってくるか。

ハル、体温計買いに行ってくるから、大人しく寝とけな!」

「ハァハァハァハァ…ん。」

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【ハルサイド】

大人しく寝とけって…言われなくても寝るわ…

いっつ…。頭痛い…

薬、飲むかぁ。

いや、でも立花のじいちゃんは相当痛い時って言ってたな。

初めてだし良くわかんねーけど、この痛みが“相当”に値するのか?

すげー痛いけど、これ以上の痛みが今後来るかもな…

そう思って、痛みをこらえながら、薬は飲まず眠りについた。

……と。

痛くて痛くて眠れない。

さっきから、頭が痛すぎて吐き気もする。

「う"っ…ハァハァハァハァ、、、はき、そ…いっつ…あたまも、、いてぇ…」

良輔が居なくなった部屋に、俺の声だけが寂しく響く。

やっぱり薬飲もう。

そう思って、ベッドから立ち、寝室の扉に手をかける。

グニャリ

視界が歪みに歪んで…うわ…気持ち悪…

立っていられなくなって、ドアに倒れ込むようにして廊下に寝転んでしまった。

廊下はヒンヤリしててかなり気持ちがいい。

(このままここで寝るのも…アリ)

なんて思いながら、立ったことによってぶり返してきた痛みを緩和させるように、廊下で眠りについた。

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【良輔サイド】

ハル、大丈夫かな。

そろそろ家に着くけど、走ってきたから喘息らしき兆候が。

「ヒュー、ヒュー、ヒュー、」

俺の喉が、気管が、ヒューヒュー悲鳴をあげている。

でも、そんなの気にしない。

家で待ってるハルのために、俺は急がないと。

再び走り始めた俺に、空から何かが当たった。

___雨だ。

一気に呼吸が苦しくなってくる。

「ヒュ、ヒュッ、ヒュッ、ハァ、ハァ、ハァ…う、だめだ、大丈夫、大丈夫、」

自分に言い聞かせる。

自己のことなんてもう忘れろ。父さんと母さんのことだけ、忘れなければいい。

ハルがそう言ってたじゃん。

大丈夫、大丈夫。

「ハァハァ…フゥ、フゥー、スゥー、フゥー」

よっし。落ち着いてきた。

最近は自分でもコントロールできる日が何日かある。

もちろん、過呼吸の発作を起こしてることはハルには内緒だけど。

余計に心配かけちゃうし、今日みたいにハルが体調崩してても、ハルは自分のことより俺のこと優先しちゃうから。

色々考えながら走ってるうちに、家に着いた。

カチャリ、扉を開けて靴を脱い…

!?!?

廊下にハルが倒れてる。

急いで廊下の電気を点けると、俺が買い物に出る前よりも顔色の悪いハルが、右手で口元を抑えながら、廊下で苦しそうに肩で呼吸をしている。

「ハル!!」

ハルに近寄って、額に手を当てる。

ものすごい熱。計らなくても分かる。

とりあえず、ベッドに移動させないと。

「ハル、起こすよ、ベッドに戻ろ。」

「ハァハァハァハァ…だめ…うっ…吐き、そ…」

「吐きそう?そっか、じゃあトイレ向かうぞ。」

そうか、トイレに行こうとしてベッドから出たら倒れたのか。

1人で勝手に納得する。

トイレに着くがいなや、ハルは便器に向かってゲーゲー吐き始めた。

しばらくして、

「良輔、もう、大丈夫。ありがとな。

自分で、部屋、ハァハァ、戻れるから、お前、も、休め。」

何、何、何、俺のことなんか心配してんだよ…!

ハルのあまりの優しさに、涙がこみ上げる。

グッとこらえて、素直にリビングに行き、ソファに座った。

ハルが決めたことは応援する。そう決めたから。

しかも、ハル、意外と頑固だしな。(笑)

とは言っても心配だから30分くらいしたら様子見に行こう。

今の時間は…23:50か。

俺はまだ起きていられる時間だ。

明日1日休講だし。

ハルは明日大学休ませよう。

--------------------

【ハルサイド】

頭の痛みで目が覚めた。

ベッド脇の時計を見る。

朝方の4:00ぴったしだ。

「フゥ…」

額に手を置いて、ため息を一つ。

すると、良輔がタオルと水の入った洗面器を持ってきた。

「お!起きたか!」

「おう…。良輔、しっかり寝たか?」

「俺の心配はしなくていいの。さっき仮眠とったから。」

「そっか…」

「体、汗で気持ち悪いだろ?上半身だけでも拭いてやろうと思ってさ」

「ありがとな」

この会話をして間にも、俺の頭は悲鳴をあげてる。

ズキズキズキズキ…

良輔が体を拭き始めてくれた。

ちょっとして、

今までにない痛みの波が来た。

「いっ…!!」

痛い、その言葉さえも言えなかった。

左側のこめかみの辺りを手で抑える。

呼吸が乱れてくる。

「ハァハァハァハァ…いっ…ハァハァ、」

だめだ。薬、持ってきてもらおう。

「りょう、す、け、」

「薬だな!分かった!待ってろ!」

「ん…。」

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【良輔サイド】

ハルの体を拭いていると、ハルが突然頭を抑えて痛がりだした。

この痛み方は尋常じゃないんだろうな。

すると、

「りょう、すけ、」

薬だ。

すぐに分かった。

俺は薬を取りに行き、ハルのもとに戻ってきた。

薬を飲ませて、体を横にさせる。

しばらくすると、薬が効いてきたみたいで、ハルはぐっすり眠り始めた。

良かった。俺も寝るとするか。

あ…。もう6時。このまま起きてるか。

こうして、ハルと俺の長い夜が終わった。
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