ヒステリックラバー

「美優は何が食べたいですか?」

「直矢さんの好きなもので大丈夫です」

「そうですか……」

何かを考えているのかしばらく無言だった直矢さんは唐突に「僕の家に来ますか?」と言った。

「え!」

「食事は僕が作ります。嫌ですか?」

「嫌じゃないですけど……」

直矢さんの家に行くなんて緊張してしまう。

「では決まりですね」

車は私の家とは反対方面に向かう。

直矢さんの家に行くなんて予想していなかった。私たちは今日だけの恋人。直矢さんが招いてくれても遠慮するべきだったかもしれない。
無言になってしまった私に直矢さんは「下心はないので安心してください」と言った。

「え、いや、あの……」

「今日一日恋人のつもりですが、それを強要はしません。美優が困ることは何もしませんよ。美優が望まないのであれば手を繋ぐ以上に触れることはしません」

横を見ると直矢さんは私を不安にさせないように微笑んで前を見て運転している。

「帰りたければいつでも家までお送りします」

「はい……」

どこまでも私を大事にしてくれることが嬉しい。今直矢さんを怖いと思うことは一切ない。










直矢さんの手料理は文句のつけようがないほど美味しかった。部屋も綺麗にしているし料理もできて容姿も仕事も完璧な直矢さんに私は圧倒されてしまった。
食事を作るのを手伝うと言ってもソファーに座らされて直矢さんの後姿を眺めているだけだったから、せめて片づけをするとお願いしてキッチンに立たせてもらった。

「美優、今日はありがとうございます」

突然直矢さんにお礼を言われてコップを洗う私の手が止まった。

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