泥酔ドクター拾いました。
時間外出入り禁止と大きく書かれた扉の張り紙なんて見て見ぬふりして、私はその重たい扉を開けて、屋上へ出るとおもむろにベンチに腰を下ろす。
日中は初夏の日差しで暑くてしかたなかったというのに、屋上の夜風は涼しくて気持ちよい。

急変した患者さんが亡くなったことを知ったのは、緊急招集のコールがあってから2時間程経った、先ほどのことだった。
家族もどうにか駆けつけることが出来て、看取りは出来たっていうのがせめてもの救いだ。


日勤の勤務を終えて、少し家に帰って仮眠をとった後に午前1時からの深夜勤務の予定だったのに。

完全に帰るタイミングを逃してしまった。まぁ、今更帰ったところで、眠れそうになんてない。

大和田先生の真剣そのものの表情も頭から離れないでいる。

それから、あの患者さんと最後に冗談を言い合って笑いあった。その時の笑顔が頭から離れない。

はぁぁぁぁ。

私は重い溜息をつきながら、夜空を見上げた。小さな星がいくつも空に瞬いている。

そんな空を見上げていたら、なんだか鼻の奥がツンとして星空が滲んで見えた。


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