泥酔ドクター拾いました。
涼しい夜風は、さっきまで走り回っていた俺の身体を冷ましてくれるように感じる。

斜め後ろから近づく俺のことになんて全く気が付くことなく、藤代さんはぼんやりと空を見上げている。

月明かりに照らされて見えた彼女の横顔はあまりにも儚げで、それでいて美しかった。

一瞬、鼻を啜った彼女の仕草で気が付いた。
彼女の頬に涙が一筋伝っていることを。


いけないものを見てしまったような気分になって、心臓の音が大きくなった気がする。
抱きしめてあげたいという衝動が沸々と湧き上がってくるのを理性で押さえながら、俺はしばらくそんな彼女の横顔から目を離せずにいた。

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