オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~

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寺町通りから少し外れた路地を進んでたどり着いたのは、それと気付かずつい通り過ぎてしまいそうな、小さな看板が申し訳程度に下げられているだけのお店だった。

カフェらしいオープンな外観でもなければ、洒落たメニュー看板が出されているわけでもない。けれど、地味というよりかは控えめと言う印象を受けた。
自信があるから大袈裟に目立たせない…そんな余裕を感じさせるお店だった。

果たして期待どおり。
入った瞬間に鼻孔をつく香ばしいコーヒーの香りと、ここも古民家を改装して造られたのだろう、古木のぬくもりにあふれる内装がほっと落ち着く気持ちにさせてくれて、とても素敵だった。


「へぇ、期待以上だな。ここはコーヒーも美味いって評判なんだ」


と、向居は朝日がやわらかく溜まっている木製のカウンター席に座る。

ブレンドコーヒーを注文し、待っている間、窓の外に目をやる。

向かいにある建物の木戸が開いて、職人姿の男の人がのれんを戸の端にかけた。
お店なんだ。なんだろう、和菓子屋さんかな?

お店の前を箒で軽く掃いて、職人さんはまた店内に戻っていく。
開け放された戸の中で、店の奥から運ばれてきた色とりどりの和菓子たちが、朝日を受けて商品ケースの中で輝いていた。まだ八時にもなっていないのに、もう準備万端だ。

小さな古都の日常が始まろうとしている。ほがらかな朝日のもとで。
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