温かな陽に溶け込むように、不思議とさっきまでのくすぶった気持ちが薄らいでいくのを感じた。

ふわり、と香ばしい香りが鼻をくすぐる。
コーヒーが運ばれてきた。


「いい香り」


思わずつぶやくと、向居も「そうだな」とうなづいて、口をつける。
私も一口。


「美味しい…」


やさしい甘みを含んだ軽い口当たりなのに、飲んだ後に深いコクが鼻を突き抜ける。
すごく美味しい。
東京じゃこんなコーヒー、こんなリーズナブルな値段で楽しめない。


「穴場、見つけたわね」

「ああ。むしろここは紹介したくないな」


同感の意見に笑みをこぼして、二口目をすする。

コーヒーのリラックス効果なのか、観音様のお力なのか、やさしい朝のおかげなのか…はたまたそれらすべてが相乗効果を生み出したのか…先ほどの胸のざらつきは、いつの間にか消えていた。

不思議と凪ぐ心に、ただひとつ、たゆたうように残っているのは、重苦しい気持ちだけ。

ちらっと向居の横顔を見やる。

ねぇ、どうしたら、ここまでいい旅ができるのよ。