雪村 海月side
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もう「あの日」から買い替えることのなくなった上履きで廊下を歩く。






故意に捨てられることのなくなった教科書たちを詰め込んだ鞄は重たいのに、心はあの日々より遥かに軽かった。







昇降口に辿り着き、自分の下駄箱の中に1枚の紙を見つけて思わずヒュ、と息が狂った。







粘着質で念入りに、計画的に暴力的に強いられ、積み重ねられた真っ黒なあの日々が今この瞬間にも瞬時に蘇り、心臓が破裂しそうなほどうるさくなる。







身体中に駆け巡る騒がしさとは裏腹に、外部の音はどんどん遠のいていく。






どこからともなく聞こえてきた誰かの笑い声は、私の耳に入る前にぼやけて歪んだ。







痺れるように冷たくなった、わずかに震える指でその紙をゆっくりと手に取った。








見るまでは、安心、できない。




見てしまったらもっと安心できないのかもしれない。そんな思いが身体中を駆け巡る。






口を結んで、不安で止まりそうになる呼吸を必死で繰り返してその紙に目を通す。





いっそ、見なければよかったと思うくせに、目を通さずに気にしていることの方がよっぽど苦しみと思ってしまう私は、どうしたって見てしまう。









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