冷血部長のとろ甘な愛情
味わうため
六月に入って、一週間が過ぎたある朝。

毎朝見ることが日課となっている情報番組で「関東地方は昨日梅雨入りをしました」とアナウンサーが言っていた。

今にも降りだしそうなどんよりとした曇り空を見上げて、右手に傘を持って家を出る。

電車に揺られながら今日の予定を思い浮かべた。来週開催の工業大学での文具フェアの最終会議が午後にある。

最終となるので、部長も課長も参加予定となっている。スムーズに終わるといいな。


「おはよう」

「うわっ……おはようございます」

「なんだよ、その化け物でも見たような顔は」

「いえ、失礼しました。考え事をしていたので声を掛けられてビックリしただけです。今日は早いんですね」


いつも部長の出勤は私よりも遅い。だから、朝に駅で会うことはなかった。油断しているときに現れるなんて嫌な男だ。

「まあな」と言った部長は私の横を歩く。このままオフィスまで一緒に出勤しなくてはならないのか……憂鬱な梅雨空に負けないくらい私の心も憂鬱だ。
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