冷血部長のとろ甘な愛情
頬を叩いてやった。

軽くだからそれほど痛くはないはず。一応上司だからと手加減はしたつもり。

私は唖然としている部長を残して、家へと走った。ヒールの音が大きく響くけど、気にしていられない。追いかけてくるかもしれないからと必死に足を動かして家に入り、しっかりと鍵をかけた。

追いかけてくる足音は聞こえなかったから多分大丈夫。


「夏鈴、おかえり。どうしたの?」

「あ、ただい、ま。はあ、はあ……トイレに行きたくなって走ってきた。トイレ、トイレー!」

「なによ、落ち着きがないわね」


呆れる声が背後から聞こえたけど、そんなのは気にすることではない。感触が残っている唇にそっと手を当てる。

三回目のキスはいつもより熱くて、流されてしまいそうだった。あそこで我に返ってよかった。だけど、好きとか言ったよね?

おれは本気?

好きだからキスしたというの?

嘘でしょ……信じられない。

嫌がらせとしか思えない。


「夏鈴ー。父さん、トイレに入りたいんだけど、まだか?」

「あ、ごめん!今出るね」


抱えていた頭を上げて、トイレを出た。深く考えるのはやめておこう。
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