先輩、一億円で私と付き合って下さい!
第六章 勝手すぎる人々がいる・・・

 梅雨の中休みは、どんよりとした厚い雲が垂れこんでいた。
 街の全体が圧縮されそうに、不安定に重く圧し掛かっている。

 蒸し蒸しと不快指数もアップ中。

 この時期、中間テストはついこの間終わったと思っていたが、すでに期末がおおよそ二週間後に迫っている時でもあった。

 そこに加えて、ノゾミと付き合う期間もあと一ヶ月。
 デートらしい事もしておらず、彼氏としての役目を俺はまだ何も果たしていない。

 それも気になりながらも、この日、土曜日なのだが、夕方に父親と料亭で会う約束をしている。

 まるで政治家の密会のような気分だった。

 医者になる事を条件に大学費用を用意するという点では、立派に密約として見返りを得る賄賂そのもののように思える。

 滑稽なこの状況に笑ってしまうのだが、それが将来を左右し、自分一人の問題ではないと我に返ると、己の愚かさが腹立たしくなってきた。

 まだこれでも17歳で世間一般からしたら子供の部類に入るだろう。
 そんな年で、一生を左右する事を、ずっと憎んできた父親の前で決断となると、同情してほしいくらいだ。

 俺は一体どうしたいというのか。
 まだはっきりと決めかねていた。

 てっきり母も一緒に来るかと思っていたら、免罪符のように仕事を盾に、休みが取れないと言い出した。

 結局のところ、元夫には会いたくないのかもしれない。
 仕事が忙しいのも嘘ではないから本心は本人にしかわからなかった。

 仕事に出かける前に穏やかな口調で母は俺に言った。
「嶺はしっかりとしているから、私がいなくても大丈夫」

 俺自身が好きに決めていいと、母は意味している。

 だから俺は、一番いい服──といっても大した服はもってないのだが、それなりにきっちりとした身なりに見えるように、落ち着いた色合いの服を身に着け、いざ出陣。
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