先輩、一億円で私と付き合って下さい!
エピローグ
 俺は恥も外聞もなく、潤った赤い目をして家に帰ってきた。
 鼻水も垂れてズルズルとぐずっていた。

 ノゾミの事を考えると、罪悪感と行き場のない思いに胸が潰されそうになる。
 その度に、またカッと目頭が熱くなって、涙が見る見るうちに溜まって流れてしまう。

 大切なものを失ってしまったその悲しみは、後悔と自分の愚かさで悔しく、そしてとてつもないノゾミへの思いに心引き裂かれてどうしようもなかった。

 すれ違った人たちが時々振り返ったりしていたが、俺は人に何を思われてもどうでもよかった。

 酷い顔をして玄関のドアを開く。
 家はひっそりとして、静かだった。

 何もする気も起こらず、人形になったように魂が抜け、気怠くテーブルにつき、暫くボーっと座りこむ。

 考える事はノゾミの事ばかりだった。

 俺はノゾミに助けられて、新しい世界で生きている。
 ノゾミに与えられたこの命を無駄にはできない。

 でも俺が存在しても、ここにはノゾミがいない世界になってしまった。
 やるせなさに襲われ、俺はテーブルに突っ伏した。

 どうしようもない悲しさに押しつぶされそうになっている時、その目線の先に食器棚の引き出しがあった。

 それを見て突然目覚めたように起き上がり、引き出しを開けた。

「あった!」
< 162 / 165 >

この作品をシェア

pagetop