雨宿り 晴れ気分
雨宿り
***


私、永井佳純(ながい かすみ)は雪解け時期の雨が嫌いだ。

寒いし、冷たいし、濡れるし。

これが雪なら、どんなにいいだろう。

雪なら多少積もっても落とせばいいから、傘を持たなくていい。というか持っていたら危ない。

凍結している雪道で、傘なんか持って片手が埋まることを考えると、断然雪の方がいい。


でも、吹雪はやめてほしい。

横殴りの雪なんて、あり得ないから。

でも、あり得てしまうのが、北国の北国たる所以。


気温が高くなるから雪ではなくて、みぞれになって、みぞれから雨になる。

その過程は好きだけど、長いようで短い冬の間に、降り積もった道の雪がグチャグチャになるのは許されない。

だけど気がつけば雪は融けていて、白い世界から、雪と泥が混じった白と黒の世界になって、コンクリートの道路が見え始めると、基本的には灰色の世界に移行していく。

ちょうど、そんな季節。

雨が雪になる程には寒くなくて、でもコートを手放せるほど暖かくもない。

白い息を吐き出して、ビニール傘に落ちてくる水滴を眺めた。


もう少し暖かくなれば、新緑が増えて桜の花も咲くんだろう。

今は薄っすら薄暗く曇り空だけど、晴れれば明るいスカイブルーが見えるはずだ。


そんなことを考えながら最寄り駅にたどり着くと、傘をたたんで流れた水滴を軽く振って払う。

高校から歩いて10分。駅の待合室は高架下にあった。

数人座れればいい程度の、プラスチック製のベンチが三列並んでいる。

そのひとつに腰掛けて、リュックを下ろすと、読みかけの文庫本を取り出した。
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