エリート上司の過保護な独占愛
第二章 運命なんてころがっていないのです
 絵美が用意してくれた、ブランチを食べて彼女のマンションを後にした沙衣は、電車に揺られながら一件の本屋を目指していた。

 日曜日の午後、家族連れやカップルなどで人は多かったが、いつもの通勤電車とは雲泥の差だ。車内に流れる空気がゆったりしていた。沙衣もつり革に掴まってさっきまでのことを思い出していた。

 (あぁ、絵美さんの追求すごかったな……)

 女子は皆、恋バナが好きだ。沙衣とて例外ではない。いままでほとんど経験がないので、いつも聞き役ではあったがそれでも幸せそうに話をしているのを聞くのは楽しかった。

 けれど、絵美の質問――というより尋問に近い――は、沙衣の淡い片想いの歴史を紐解くレベルで根ほり葉ほり聞かれた。ただ見つめていただけだから、そう話をするようなことはないはずなのに、絵美は興味津々に尋ねてきた。

 まぁ、頼もしい相談相手ではある。正直沙衣ひとりでははじめの一歩さえ踏み出せなかったかもしれない。その点は感謝しなくてはいけないだろう。

 絵美のマンションと沙衣のマンションの間に、会社の最寄り駅がある。沙衣はそこでいったん下車して、絵美に言われるままに書店を目指した。

 (どうしていきなり、本屋さんなんだろう?)

 マンションの部屋を出るときだった。絵美が会社近くの本屋で、一冊の本を買ってきてほしいと言い出したのだ。

 絵美の住むマンションの近くにも本屋はあるし、ネットでも買える。それに明日出社するのであれば、仕事終わりや昼休みに寄れないこともない。

 不思議に思った沙衣だったが、最近忙しくてめっきり本屋に行けておらず、好きな作家の新刊が発売していたことを思い出し、久しぶりに本屋に寄るのもいいかと思い了承した。
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