伯爵夫妻の内緒話【番外編集】


高い天井の広間は、クレムラート家ではみんなが集まっての食事の時に使われる。
今は朝食を終え、食後の紅茶が運ばれてきたところだ。

並んで腰かけたフリードとエミーリア、大きなテーブルを挟んでマルティナが向かい合っている。
三人は豊かな香りにほっと息をついた。

従者であるトマスはマルティナの後ろに控え、フリードの従者のディルクは控えめに扉の前に立っている。
しかし、ディルクはひとつ咳払いをすると、まったく控えめではないはっきりした口調で言った。


「本日の予定をお伝えします。午前中はヴィルマ准男爵が婚姻の報告にいらっしゃいます。こちらはエミーリア様も同席してください。午後からはフリード様は剣術の稽古を。今日は指導にベンノ卿が来てくださる予定になっています。エミーリア様はマルティナ様と裁縫の続きをなさってください」


朗らかな空気を一蹴されて、フリードとエミーリアは顔を見合わせた。


「ああ、わかったわかった」


ディルクがこのタイミングで一日の予定を告げるのはいつものことだ。
フリードは大概それを守るが、エミーリアはなんだかんだと理由をつけて逃げることも少なくない。
マルティナと一緒に、という制約を敢えて付けたのは、エミーリアの逃亡防止のためだろう。


「裁縫ねぇ……分かりました。頑張るわ」

「わ、私も頑張ります!」


両手を胸の前で握って、意気込みを見せたのはマルティナだ。
それを、うんうんと頷きながら聞いているのが彼女の後ろに控えるトマスである。
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