カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

育まれていく責任感



 ◇


 この日も夏彦さんは朝早くに家を出る予定。


 わたしは約束通りに早起きをして、朝食を作ろうと冷蔵庫を見て驚く。そこに達筆な置き手紙があったから。



 "だし巻き玉子"



 食べたいもの言って欲しいと伝えたのはわたしだけど。まさか紙に書いてあるとは……。


 あ、そういえば最初に鍵のことドアに書いて貼ってあったな。


 でも本当に気に入ってくれたんだ。わたし、たまに失敗するし、料理人に食事を作るっていうのも緊張するけど。



「うん、大丈夫」



 夏彦さんが喜んでくれるなら。誰かに求められているって思えるのはすごく嬉しいから。


 この間言っていたけれど、ちゃんとご飯を作って食べることはなかったみたい。
 一人暮らしだから面倒だというのもあるし、何より作って食べる行為は誰かがいないと寂しい。


 そんな風に言う夏彦さんを思い出して、笑ってしまう。


 確かに、キッチンのゴミ箱にはカップ麺や弁当のパックなどが見えていた。
 寂しいってのは、わかる気がするんだけどね。

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