その時は、唐突に訪れた。
今日は朝から雨だからか、今年引いたおみくじが末吉だったからか、それとも神さまのイタズラか……そんな事を思いながら、目の前の人を塔子は亡霊でもみるような気分で見つめた。

「片桐さん?」
部長の声に、塔子は我に帰るとなんとか言葉を発した。

「初めまして。片桐 塔子です」
心臓の音がバクバクと耳に響いて自分のものではない気分になり、背中に冷たく汗が流れた。

(なんでここにいるの?なんで?今更、今更会いたくなかったのに……)


しっかりと何重にも掛けていた心の鍵が、嫌な音を立てて外れる気がした。


「初めまして。千堂大輔です」
その彼は何事もないような顔をして、優しい微笑みを湛えて隣の社長を見ると、その彼は言葉を続けた。

「社長、今日のマクロス社との商談に同行する、海外事業部の片桐さんです」
微笑を浮かべた綺麗すぎる顔から、塔子は無理に視線を外すと社長と向き合った。

「大阪支社より今年度より移動になりました片桐です。よろしくお願い致します」
塔子はなんとか平静を装うと、社長に挨拶をした。

これでも何年も第一線で仕事をしてきた。多少の動揺を出す様な子供ではない。
いつのまにかポーカーフェイスだけは上手くなったように思う。

「君の噂は聞いているよ。大変優秀だって」
「恐れ入ります」
社長のその笑顔に微笑み返した。