彼と私の優先順位
再会
「紬木さん、悪いんだけど不動産部に行ってきてくれない?」

連絡用ホワイトボードに名前を書きながら、営業第一部渉外の笠井さんが私に話しかける。

「不動産部、ですか?」

支払い用伝票を探していた手を止めて、聞き返す。

「そう。
この住所の住宅地図、借りてきて欲しいんだ」

そう言って笠井さんは私に付箋を渡す。

「わかりました。
伝票処理をした後で行ってきますね」

「悪いね、よろしく」

笠井さんに微笑んで、私は自席に戻る。



ここは大阪市内にある銀行の営業フロア。

私は市内の女子大学を卒業して、この会社に就職した。

自宅からも一時間程で通える範囲だったけれど、朝の早い職業なので、この機会に大阪市内で一人暮らしをすることにした。

一人娘の一人暮らしを両親は心配していたけれど、成人もして、社会勉強だということで理解してくれた。



銀行と言うと、窓口業務のイメージが一般的には強いけれど、その業務は多岐にわたる。

現在入社三年目の私は、笠井さんをはじめとした営業第一部の渉外グループの営業補佐、といった仕事をしている。

笠井さんは私の三年先輩になる。

私は入社一年目の研修でしか窓口業務を経験せず、普段もお客様と直接折衝することはほぼない。
< 46 / 207 >

この作品をシェア

pagetop