明日、君を好きになる
8月の雨

…その日は、雨の少ない8月にしては珍しく、朝から弱い雨が降っていた。

いつも通り、開店の準備を終えると、ポストに入っていた朝刊を、マガジンラックに入れ、奥のテラス席の状態を見に向かう。

風はなく、吹き込むような雨ではないけれど、テラス席のテーブルも椅子もしっとりと濡れていて、やはり本日は使えそうにない。

オーナーの渚ちゃんに確認する必要もなく、透明なスライドドアを閉め、【本日テラス席はご利用できません】と書かれた看板をその前に、掲げる。

おかげて、テラスの3席は実質使えないけれど、透明なガラス窓の向こう側に広がるテラスは、雨に濡れたガーデンテーブルのセットと、ハーブの鮮やかな緑色が絶妙なコントラストを奏でていて、店内から眺めると一枚の巨大な絵画のように見える。

これも、最初から彼女の計画の内だとしたら、凄いな…などとぼんやり考えていると、来客時に鳴るベルの音が軽快に鳴り響き、反射的に『いらっしゃいませ』と声をかける。

入ってきたのは、常連客である、バーテンダー風の男性。

時計を見ると、6時5分過ぎ…定時のご来店だ。

ただし、今朝はいつもと様子が違い、毎日のように入ってすぐ手に取る新聞も取らずに店内奥に向かい、テラス席が利用できないと分かると、そのままテラスに一番近いカウンターの端の椅子に座る。

同時に襟元を緩め、目元を抑えると、深くため息を吐く。
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