black×cherry ☆番外編追加しました
重なる偶然
「・・・くら、さーくら」

遠くで誰かの声がする。

聞き覚えのある、かわいらしくも今はちょっと怒った声だ。

そんな、頭の片隅に聞こえた声が、突然、パンパン!と弾く音に変化した。

「こら!咲良!!」

「・・・!?えっ!?」

「もー・・・久しぶりに会えたと思ったら、ずっとぼーっとしてるんだもん!」

目の前で手をたたいたらしい千穂ちゃんが、怒った顔で私を見ている。

私はそこではっとして、慌てて「ごめん!」と謝った。


(いけない・・・久しぶりに会えたのに)


秋の気配が近づいた、10月半ば。ランチタイムの大学内のカフェテリア。

お気に入りの窓際席で、私と千穂ちゃんは向かい合って座っていた。

お互い卒論で忙しく、講義も重ならなかったために、こうして二人で会えるのもすごく久しぶりのことなのに・・・。

「どうかしたの?ごはんもほとんど食べないし・・・ずっと上の空みたい」

「・・・ごめんね、せっかく一緒に食べているのに・・・」

想像以上に、黒崎さんにフラれたショックはとても大きいようだった。

あれからもう半月以上が経っているのに、ぽっかりと空いた胸の隙間は、なにをしても埋まらないまま。

「卒論のことじゃないよね?宮内先生、咲良順調だって言ってたし・・・。となると、黒崎さんか・・・」

「・・・うん・・・」

少しだけ迷ったけれど、私は、失恋の経緯を聞いてもらうことにした。

二度目のメールを送ったこと。

けれど読んでもらえていなかったこと。

そして再び「好き」って気持ちを伝えたけれど、「お嬢様の気まぐれだ」って、早川先生と結婚するのが「正解」だって、そう言われてしまったことを。
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