過保護な副社長はナイショの恋人
副社長に誘われました
松谷一翔(まつたに かずと)三十二歳。大手外資系証券会社、日本法人の副社長。

七年間のニューヨーク勤務を経て、副社長まで上りつめた完全叩き上げの人。

甘いルックスと一八〇センチの長身、スラッとしたスタイルで、モデル並みの華やかさがある。

だけど、会社で見せる副社長の顔は、とにかく仕事一筋で、優しい印象はない。

それでも彼の見た目と地位に惹かれて、本気で狙っている女子社員は多い。

松谷副社長ーー私が勤める会社の副社長だ。

「梶田、この資料を副社長室まで持っていってくれるか?」

課長に頼まれ受け取ったメモリは、役員会議で使う内部資料が入っている。

私が所属する総務部は、会議室の管理や、出張と異動の手続き、そして副社長室との連携などがある。

松谷副社長は、就任一年目の若手副社長だけれど、経営能力が抜群によく、私たち総務部との連携も、彼が打ち出した業務改革の一部だった。

時々、このフロアにも視察にやって来て、部長たちと意見交換していた。

「分かりました。すぐに持っていきます」

ひとつ上の階に副社長室があり、階段で頻繁に行き来している。

メモリを握りしめ、部屋を出る間際、同期のあやめに声をかられた。

「あれ? 咲実(えみ)、また副社長室?」

「うん。メモリを任されちゃって」

苦笑いをすると、あやめはからかうような笑顔を作った。

「最近、なにかと咲実にご指名が入るわね」
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