そのくちづけ、その運命
エピローグ
あれから1年が経った。季節は春。

私は大学4年生になり、真人はデザインを請け負う会社に内定が決まった。

まだアシスタントではあるけれど、今後は自分でも絵を描けるようになるかもしれないと、とてもうれしそうに話してくれた。


地元の会社なので、離れなくて済む。ずっと一緒にいられる。本人には言えなかったけど、それが長い間気がかりだった。


真人の部屋で彼が自分のことを話してくれた日から、私たちは片時も離れずに一緒にいた。

それくらいにお互いに安らぎを感じていたのだと思う。


ずっとお互いの部屋を行ったり来たりして、、今思うと半同棲のような生活だった。このことが親にばれたらアパートを解約されかねなかったけど、もうすぐお互いの家に挨拶をしに行く予定だ。
当日になれば、もちろん緊張するだろうけど、今はちょっとワクワクしている。だって、峰倉真人を育てたお父さんお母さんがどんな人なのか、純粋に気になる。そして会うことができたら、真人を生んでくれて、育ててくれてありがとうって言うつもりだ。

半同棲生活と言っても、私は毎日真面目に大学に行った。そう簡単に生活は変わらない。
そこに、当たり前のように真人がいるようになっただけで。
大学で、文香にそのことを伝えると、有無を言わせぬ口調で「今度紹介してね」とひと言。
彼女は多くのことを語らない。ただ、「暗に好きな人ができてよかったね」と言っているようだった。

そして、
「心から好きだと思える人と一緒にいられるのって、本当に幸せなことだから」
と言った。

多くのことを語らなくても、その言葉から文香が祝福してくれていることが十分に伝わってきて、
心の芯からじーんと温かくなるのを感じた。

うん。私もそう思う。

そして「これからは恋バナできるね」とまたいつもようにケラケラと笑い合ったのだった。



一方、真人もスーツを着込んで就活に出かけていた。

普段のまったりとした印象が強いため、スーツ姿は違和感しかなく、私は笑いをこらえるのに必死だった。

「笑うなよー」って彼はふくれていたけれど、
私は彼のそんな表情を見て、またひそかに「好きだ」をかみしめた。

だけど、真人は私のことなんて、どうせお見通しだろうな…



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