カノジョの彼の、冷めたキス


まだ帰らないのかな。

少しくらい振り返ってくれないかな。

この前三宅さんと親しげにしている姿を目撃して落ち込んだのに、あたしはまだ渡瀬くんへの未練を捨てきれない。


顎で使われたって構わないから、「コーヒー淹れてこい」とか言わないかな。

しばらく無言で見つめてみたけれど、あたしの念は届きそうもない。

浅いため息を吐いて立ち上がる。


「お疲れさまです」

自分からアピールするのも情けないけど、それでも帰る前に何とか渡瀬くんに振り向いてもらいたかった。

カバンを持ち上げて挨拶すると、渡瀬くんが手を止めてあたしを振り返る。


「あれ、帰んの?あと5分くらいしたらコーヒー頼もうと思ったのに」

彼が椅子ごとあたしのほうを向いて悪戯っぽく笑う。

その笑顔にキュンとときめきながらも、だったらもうちょっと早く言って欲しかったと心の中で愚痴るようにつぶやいた。



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