カノジョの彼の、冷めたキス
カレの彼女
不安の影
仕事帰りにオフィスの近くのカフェでコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいると、向かい側の席に誰かが腰かけた。
「お待たせ」
聞き馴染んだ声に顔をあげると、渡瀬くんがにこりと微笑みかけてきた。
「お疲れさま」
「何見てんの?」
雑誌から顔をあげて笑い返すと、渡瀬くんが腕を伸ばしてあたしから雑誌を取り上げた。
「この秋行きたい温泉旅館特集?」
あたしが開いていたページの特集タイトルを読み上げながら、渡瀬くんが怪訝そうに首を傾げる。
「穂花、誰かと旅行でも行くの?」
渡瀬くんがあたしから奪い取った旅行雑誌を捲りながら、ちょっと不満気に訊ねてくる。
なんだか拗ねたみたいなその言い方が可愛く思えて、あたしは渡瀬くんから雑誌を取り戻しながらクスクスと笑った。