カノジョの彼の、冷めたキス


渡瀬くんはいつもどおりなのに、彼と向かい合うあたしのほうは、終始ドキドキが止まらなかった。

渡瀬くんが箸やコップをつかむ、そんな仕草を見ているだけで、その手がさっき自分の頬や身体に触れたことを思い出して頭の中が沸騰しそうになる。

話しながら目が合えば、それだけで全身が熱くなる。

連れてってくれたのは、渡瀬くんが好きな和食屋だと言っていたけれど、正直なところ味なんて全然わからなかった。

何を話してても、何を食べてても、あたしの全意識は渡瀬くんだけに向いていた。


エレベーターの中での数分間。

渡瀬くんは何を思っていたんだろう。

ただそればかりが気になる。

駅前で手を振って別れたあとは、ただ切なくて淋しかった。


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