閉じられた戸を見つめて私は考えた。

真夜中だけなのだ。
昼間は職場にいるし、例えこちらを訪問するとしても怖くない。
夜でも早い時間であればそれほどでもない。
真夜中だけ移動しなくて済む方法があれば・・・。


見つめていた引き戸がガラガラガラと開いて、驚いた顔の彼が私を見つめた。
「まだいたのか」「一体何の用だ?」と目が言っている。
その聞こえない声に答えるように、私は大きく口を開いた。

「『ここで寝起きしても構わない』っておっしゃってましたよね?」

「・・・ああ、はい」

「夜だけ、お世話になってもいいでしょうか?もちろんご迷惑にならないようにリビングの隅で構いません。朝早くには出ていきます。決してプライバシーを覗いたり、お邪魔になるようなことはしませんから!」

随分思い切った決断だったのに、彼は眉一つ動かさない。

「どうぞ。お好きなように」

まるで他人事のようにあっさりと、私の決死の願いは了承された。

「ただリビングの隅は俺が困ります。2階の奥の部屋を使ってください。荷物置き場になってますが、布団1枚くらいは敷けますから」

「はい」

「簡単な内鍵を今日中に付けておきます」

「それは・・・申し訳ないです」

「その方がお互い安心なので」

「わかりました。お願いします」

「今から使いますか?」

「いえ、今夜からお願いします」

「そうですか。では、おやすみなさい」

トントンと足音が2階にたどり着く。
そして少し迷ったような間があってから、静かにパチリと階段の電気が消えた。


今夜からこの家で寝る。
自分で言い出したことにも関わらずこの状況に戸惑ってしまい、その帰り道は全然怖くなかった。