ここにはいられない


簡単とは言っても準備を終える頃にはすっかり夕食の時間になっていた。

この部屋には寝る時来るだけだから、自分の部屋に戻って食事すればいい。

そう思って自宅でご飯を炊き、カレーを作ったのだけど、迷いながらも余分に作ってしまった。
まあ、カレーは余ったら冷凍すればいいだけだから。

迷い迷い彼の部屋に行き、チャイムを押すか一瞬考えて、そのままドアを開ける。
リビングでパソコンに向かっていた彼は顔をこちらに向けることすらしなかった。

「あのー」

返事はなく、顔だけ動かして私を見た。

「ご飯はもう食べましたか?」

彼が急に私の頭上に視線を向けるので私も同じところを見ると、壁掛け時計が7時20分過ぎを示していた。

「あー、もうこんな時間か。そろそろ、と思ってました」

食べてなくてホッとしたけれど、もう一歩踏み込むのにはそれなりの勇気が必要だった。
大きめに息を吸い込んで思い切って言う。

「あの、カレーたくさん作ったのでよかったら食べませんか?」

目が少しだけ大きく開いた。

「えっとお礼にしては安過ぎるのでそちらは改めてするとして、今は、なんていうか、ついで?みたいな感じだと思って」

わずかに首をかしげる。

「もしよかったら食べないかなって思って作りました。他人が作ったものに抵抗を感じる人もいるでしょうから、無理に、とは言いません」

視線が外れて少し考えているような素振りをしているので、私も黙って返事を待った。

「お礼はいりません」

ある程度覚悟していたけれど、明確な拒否の言葉はやっぱり痛い。
少しだけ呼吸が止まる。

「カレーはいただきます」
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