俺様ドクターに捕獲されました


「はい、田村さん、シーツ交換終わりですよ。そしたら、今手浴の準備してきますから。指のストレッチしましょうね」


ハアハアと肩で息をしながら、床に散らばったシーツをかき集める私に、患者さんはニッコリと笑みを向けてくれる。


田村さんは、八十二歳の男性。脳梗塞を数回繰り返していて、右手に麻痺と拘縮がある。そのため、手浴で血行をよくしてからマッサージをしている。


身体も乾燥が強く、皮膚の落屑(らくせつ)がある、俗にいう粉を吹いた状態だったから、清拭のあとにホホバオイルにジャーマンカモミールを希釈したものを塗っている。


ジャーマンカモミールは炎症を鎮め、かゆみを抑えてくれる効果もあるのだ。


リンゴのような爽やかな香りは、リラックス効果もあり、不安を取り除いてくれる。


「ありがとう。身体もよーく拭いてもらって、気持ちよかったよ。前は身体もかゆかったけど、ずいぶんよくなった」

「ふふ、そう言っていただけると、うれしいです」


この病院に来るようになって一ヶ月。看護師さんたちはいまだに冷たいが、ケアに関しては手応えを感じている。


食欲不振のある患者さんは、なるべく午前中にケアをして、消化器系に利く精油を使用している。


これで、少しでも食欲が戻って、昼食や夕食の摂取量が増えれば、日中元気に過ごせるのではないかと考えてのことだ。

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