副社長のイジワルな溺愛
心の矢印


 週末も今朝になっても、副社長のキスが忘れられない。

 初めて知ったあの距離に名前があるのかわからないけど、一度動いた鼓動が止まることを忘れたように、ずっとずっとドキドキしてて……。



「おはよう、深里さん」
「お、おはよう」

 出社してきた香川さんと挨拶を交わすだけで、緊張が走る。
 誰にも知られているはずがないと分かっていても、秘密を抱えてしまって落ち着かないのだ。


「聞いてる?」
「ごめん。ぼーっとしてた」
「寝不足?」
「そうかも」

 香川さんの言うとおり、寝不足だ。

 副社長のせいで、目を閉じると思い出してしまって、あまり眠れなかった。
 あんな風に迫られたことがないから……彼の言葉の意味を理解すればするほど、信じられなくて。


 それに、倉沢さんへの気持ちにも、まだ整理がついていないのに……。


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