結婚適齢期症候群
2章 一万分の一の確率
翌日からは、彼の予告通り、私はこのホテルの宿泊以外はほったらかしだった。

いや、ほったらかしというのはあまりにも失礼か。

「一応、年頃の女性だからな。」

と言って、滞在期間中過ごせるだけの衣類代を渡してくれた。

それから、この周辺の地図も。

私はわずかのお金をもって、街中を散策したり、ウィンドウショッピングをした。

ここまで来て、美術館にもコンサートにも行けないのは、残念だったけどしょうがない。

これも自業自得だ。

お昼はもっぱらコンビニのサンドイッチ。

だけど、なぜだか日本で食べるサンドイッチよりもおいしいような気がした。

きっとこの国の空気や景色が、私の味覚まで上品にしてくれてるんだろう。

こんなに誰ともしゃべらず、自分一人きりで自分の時間を過ごしたのって初めてかもしれない。

一人きりでぼーっとしてる時でも、気がついたらタカシのことなんてほとんど思い出さなかった。

むしろ・・・。

彼は今どこに行ってんだろう?

何食べてんだろう?

日本に帰ったら、ちゃんと仕事がんばれるかな?

なんて、そんなことばかり考えていた。

夕方になりホテルに戻ると、大体彼も戻ってきていた。

特にどこへ行っただの、何をしただの、無駄な話は一切してこない。

気になるけど、私からそんな話を切り出すのはしゃくだったから、私も挨拶を交わす程度で何もしゃべらなかった。

そうして過ごしているうちに、4日目の朝が来た。

明日、私は日本に帰る。

たった4日間の滞在だったけど、特に何もしたわけじゃないけど、ここを離れることが今は辛かった。

なんだろう?

彼はいつものように歯を磨き、顔を洗って、タオルで顔をふきながら洗面所から出て来た。

起きてからつけっぱなしのテレビを、簡易ベッドの上に座ってじっと見ている。

少々無礼なこの男と、共に過ごした3日間。

あまりにもあっけなく過ぎて行った。

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