結婚適齢期症候群
4章 長い夜
職場では、ほとんどショウヘイの姿は見なかった。

社内教育が基本の仕事なので、教育関係の社外研修や社内研修の手伝いに毎日のように行かされているようだった。

そんな彼と、今日開催される人事部の歓送迎会で久しぶりに顔を合わす。

その日も出張だったけれど、さすがに自分が半分主役の会だから間に合って会場に来るだろうと思っていた。

18時に会場に入る。

既に大勢の人事部スタッフ達が会場を埋め尽くしていた。

急な退職宣言をした人事部長の姿もあった。

基本ビュッフェ形式で、岩村課長の挨拶と乾杯の音頭で始まる予定になっている。

先輩社員に促されて、人事部長と談笑している岩村課長にそっと伝える。

「そろそろはじまりの挨拶お願いします。」

時計は既に18時半前になっていた。

岩村課長は、自分の腕時計に目をやって「お。」と私に頷くと、ネクタイをくいくいっとただして、マイクの立っている会場の正面の壇上へ歩いていった。

「えー、このたびはぁ、新しく人事部に入ってくれた山田くんと澤村くんの歓迎会と、非常に残念ですが今月末で退社される松坂人事部長の歓送迎会を開催致します。今日の主役の皆さんに一言頂きたいところですが、皆もすっかり喉がからからに渇いていらっしゃることでしょうから、まずは乾杯の音頭をとらせて頂きたいと思います。」

いつも明るく話上手な岩村課長は軽く会場を湧かせて、乾杯の音頭をとってくれた。

うん、完璧。

普段は若干口うるさくて細かくてうっとうしい時もあるけど、こういう時は安心して任せられるのよね。

「乾杯!」

と叫んでコップ一杯のビールを飲み干した。
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