結婚適齢期症候群
5章 単純ではない思い
どうしていいかわからない。

こんなにもどうしていいかわからない「好き」は初めてだった。

三十路にまでなって、初恋のような新鮮で微妙で苦しい気持ちを味わうことになろうとは思いもしなかった。

彼の突然のキスが何を意味しているのかもわからない。

誰かに相談したくても、できるはずもなかった。

とりわけマキには・・・。


今、マキに誘われてやってきた陶芸教室体験真っ最中だった。

「そうそう、良い筋してるね、君。」

先生がマキの作品をのぞき込んだ。

マキは、私の横でふわふわの髪を一つに束ねて真剣な表情でろくろを回している。

こんな真剣な表情、久しぶりに見た。

「先生、私を弟子にしてくれる?」

必死にろくろを回していたせいか、マキの白い肌が少し紅潮している。

上気した美しいマキに見つめられた男性は、一気に魂を射貫かれるんじゃないだろうか。

先生は、マキ情報によるイケメン?という私の範疇を超えて、かなりの年配だった。

ひょっとしたら40歳後半くらいはいってるかもしれない。

白髪の交じったぼさぼさの髪にハチマキをして、眼鏡をかけていた。

よれよれのチェックのシャツに、しわしわのズボン。

いつも洗練された雰囲気をまとったマキとは不釣り合いなのは歴然としていた。

ただ、もう少し小綺麗にしたら、そこそこ男前だとは思うけど。

「僕は弟子はとらない主義でね。この教室だって、生活が厳しくてお小遣い稼ぎにやってるだけで。とても弟子なんかとれる状況じゃないんだ。」

先生は頭をぽりぽりかきながら、でも少し嬉しそうに笑った。

マキはそんな木訥と話す先生の方をきらきらした目で見つめている。

意外と、マキのツボなのかな、この先生。

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