強引社長といきなり政略結婚!?
結婚を迫った本当の理由
翌日、アルバイトを終え、停めてあった自転車を引いて歩道へ出た時のことだった。
「藤沢汐里さん」
突然フルネームで呼ばれ、ハッとして振り返る。
日下部さんだった。朝比奈さんの秘書だ。背筋をピンと伸ばし、着ているスーツには皺がひとつもない。
ちょっとした威圧感を覚えるのは、二度目でも変わらなかった。たった一度しか会ったことはないものの、初対面で苦手意識を植え付けられたせいか、私の印象に強く残っている人だ。
「……こんにちは」
自転車のハンドルを握ったまま、ひとまず挨拶をする。
「歓迎されていないようですね」
私の笑顔が引きつったのは、見破られたようだ。日下部さんは薄笑いを浮かべた。
「あの、なにか……?」
「ちょっとお時間よろしいでしょうか。ここでは人目につきますので、あちらで」