透明人間の色

2 愛しすぎた日常



「でね、この期間限定の二つあってどっちも食べたいんだけど、さっきお金使っちゃってね」


休日の校門前は遠くで部活の人達が一生懸命頑張っている声が聞こえる他は、本当に静かなものだ。

逆に私たちのしゃべる声が大きく感じる。

「だから、どうしようかなって___」
「じゃあ、私こっち」

うるさい楓の持っているチラシの一点に指を指す。


「あっうん………って無視しないでよ、美香っ」
「してないし」
「してるじゃーんっ」
楓の手が私の手を揺さぶる。


「いや、楓。聞いてないのはお前だ」
「えっ?」


心底不思議そうな顔。これを天然でやってるのだから怖い。



「二つとも食べたいけど食べられないってお前が言うから、美香が片方の方頼んでやるって言ってんだろ」



「えっ!嘘っ、本当?」
「___別に、特に好きなものもないしね」
「やったー」
だから、私の腕をむやみに引っ張らないで欲しいんだけど。


「あっ、でも美香、好きなものないの………?」
急に大人しくなった楓に私は首をかしげる。

「だったら何?」
「いや、そしたら美香のお金無駄遣いじゃない?」
そう言ったときの楓はとても不安そうな顔をしていた。

とても愛しい顔だ。
でもそれを見ると、私は何度も泣きたくなる。笑っちゃうくらい似合わない感情だ。




どうしてこの子には私しかいないのだろう。




全く、この世の中は馬鹿げている。


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