熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「俺が先に立って、綾乃の手を引く。……今度俺の前で目を閉じたら、その時は遠慮しないよ。覚えとけ」

「っ……!」


高鳴る胸の鼓動を、猛烈に揺さぶられる。
声が喉に張り付いて何も言えない私に、優月は軽く指を振りながら手を翳した。


「お休み、綾乃」


そのまま私の返事を待たずに、クルッと背を向けてしまう。



「あ、優月……!」


慌てて呼びかけるのとほとんど同時に、優月は走り出していた。
ゆっくり大きな歩幅で弾むように、私から遠ざかっていく。
その背が見えなくなるまで見送って、私は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


「……はあああ」


自分が嫌すぎて、太く長い溜め息が零れる。


恋になる日はきっと来る。
そう期待して願っているだけじゃ、いつまで経っても追いつけない。


心と身体の足並みが揃わないことに、どうしようもないジレンマを感じる。
どうにもならないくらいチグハグな自分に、更に嫌悪感が増す。
だけど……。


「……優月……」


無意識に名前を呼んだだけで、胸がきゅんと疼いた。
『急かさない』『ついて来い』と言ってくれながら、私の手を引く優月の心の葛藤を考えたら、ちゃんと彼に恋をすること、それだけが今の私にできることだと、強く強く自分に言い聞かせた。
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