熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
私は成人した時から、毎回穂積家嫡男の許嫁として出席していた。
婚約は解消したとはいえ、社員の今、秘書として出席することに変わりはない。


パーティー会場は、本社ビルから徒歩圏内にある、高級ホテルの宴会場だ。
二年前のオープン以来、毎回ここを利用している。


表彰式を終えて社長室に戻ってきた優月は、奥のプライベートルームで、ちょっと光沢のあるブラックスーツに着替えて出てきた。
彼は銀色のシックなネクタイを結びながら、執務机の方に回り込んでくる。


私は時間を確認しながら、窓の外に目を向けてパールのカフスボタンを留める優月に、そっと視線を向けた。
普段のオフィスとは違う、華やかなパーティー仕様のスーツ。
割と見慣れた姿だけど、いつものことながら決まっている。


「綾乃。出発まで何分?」


優月が目を上げてそう訊ねてきた時、彼の姿を眺めてボーッとしていた私は、一瞬反応が遅れてしまった。
「綾乃?」と怪訝そうに呼ばれて、やっと私は我に返る。


「あっ……! す、すみません。えっと……」


ハッとして慌てて答えながら、自分の左手首の腕時計に視線を落とす。


パーティーは十二時半開始予定。
私の腕時計の針は、十一時四十五分を指していた。
ここから会場のホテルまでは、地下通路で連結していてほんの数分の距離。
まだまだ余裕がある。
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