始業時間を過ぎた頃から、秘書室には社内外から尋常ではないほどの電話がかかってきた。
私がいる社長室に取り次がれる電話はほんの数本だけど、発売された週刊誌を目にした他のマスコミや、穂積グループの傘下企業からの問い合わせが殺到していた。


午前十時に私のコメントが一斉FAX送信された後は、私への取材依頼が急増した。
もちろん秘書室や総合受付の方でシャットアウトしてくれたけれど、社長室に直通でかかってくる電話もあり、私はそのすべてに同じ言葉で丁重にお断りをした。


「コメントさせていただいた通りで、これ以上は何もお答えできません。尊敬する穂積社長にご迷惑をおかけしてしまいましたこと、深く反省しております」


そう言って電話を切った時、廊下の外に足音が近付いてきた。
革靴の踵がカツカツと鳴る音。
聞こえたと思うとすぐに大きくなったから、きっと走ってくる足音だ。
そんな予想をした次の瞬間、ノックもないままいきなり大きくドアが開かれた。


「綾乃!!」


足音の主は、もちろん私の予想通り、優月だった。
彼は昨夜寝室を出た時と同じ、シャツとスラックスというスタイルのまま、少し息を切らしてデスクの方に大股で歩いてくる。


いつものパーフェクトな社長の姿は、見る影もない。
乱れた髪にノーネクタイの、カジュアルを通り越してラフな姿だ。