朝はココアを、夜にはミルクティーを
2 鋭いんだか、鈍いんだか

新しく来た店長の亘理さんは、とてもじゃないけれど優秀な人には見えなかった。そして、そう感じたのはどうやら私だけじゃないようだ。

彼は非常にマイペースで、朝の八時までに注目商品や特価商品を並べておかなくてはならないとバタつく私たちの横をゆるりと通過していったり、夕方の一番忙しい時間帯(といってもちょっとレジに列ができる程度)に事務所でパソコンを見ていたり、失礼だけど「仕事ができる」ようには見えなかった。


「あのさぁ、私、思ったのよ。もしかして人違いなんじゃないかって」

「人違い……、ですか?」

例によって開店中なのにガラガラの店内で、二台稼働しているもうひとつのレジの大熊さんが私のレジへやってきて世間話を始める。
大きな体を縮こませながら、私に耳打ちする。

「亘理さんのことよ!あの人、なーーんにもしないじゃない!ここに来てから三日間、ひたすらお店をウロウロしたり掃除したりしてるけど、これといった指示は何もしてこないのよ!だからね、もしかしたら本社から本当に来るはずの人がなにかの事情で来れなくなって、仕方なくそのへんにいた亘理さんに声がかかったんじゃないかって思ってさ!」

「そのへんにいた……」

大熊さんの容赦ない表現に笑いそうになり、なんとか踏みとどまるけどつい頬が緩む。
申し訳ないが彼が本社でも同じようにウロウロしている姿が想像できてしまう。誰か代わりの人をあてようととりあえず声がかかったと言われても、納得してしまいそうだ。

それから、彼のこだわりなのか「絶対に店長と呼ばないでください。むず痒いので」という願い出があり、私たちは彼を店長ではなく亘理さんと呼んでいる。

< 13 / 162 >

この作品をシェア

pagetop