記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
4 急速に動き出す歯車





 鼻をくすぐるベーコンとパンの香りに、雪乃の意識はゆっくりと浮上していく。

 次第に外から聞こえるクラクションの音や肌に当たる太陽の光を感じはじめた。朝の目覚めとしては悪くない。

 雪乃は寝返りを打ち、窓に背を向けてから目を開いた。

 当然だが、ベッドの隣に卓馬の姿はない。

 のそりとベッドからはい出た雪乃は、ウォークインクローゼットを開けて入ると、気楽なぶかぶかパーカーとストレートジーンズを身につけた。 

 まだぼんやりする頭を覚ますべく、洗面所で顔を洗うと、ようやく人間らしい気分になる。


「んー」


 体を思いきり伸ばしながらリビングに入っていくと、目覚めに嗅いだ匂いの他に、爽やかなオレンジの香りが室内を満たしていた。まさに朝という感覚に、お腹が自分以外にも聞こえたんじゃないかというほど鳴った。


「もう起きて大丈夫なのか?」


 半分に切ったオレンジを搾りながら、卓馬が声をかけてきた。


「大丈夫……っていうか、別に病気じゃないんだから」


「そうか。ならいい」


 じっと、雪乃の顔色をチェックするような視線を向けてきていた卓馬は、搾り終えたオレンジをごみ箱に捨てるとグラスに注いで手渡してきた。




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