記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
7 過ぎ去りし年月
「はー、最高だった」
足を休めるために入ったカフェで、カフェモカを一口飲んだ雪乃は、感嘆のため息を漏らした。
都内で一番の書籍量を誇る書店は、まさに彼女の心を癒してくれた。
すでに七冊の本を買った。中には辞書のような厚さのものもあり、朔の存在はありがたい。
「目当ての本があって良かったね」
「うん、ありがとう。明日から仕事なのに、このあと空港にまで付き合ってもらって大丈夫?」
自分は運転しないが、いろいろと気を使って大変だろうことは分かる。
ましてや、本屋にも二時間以上付き合わせているのだから、悪い気がしてきた。
「大丈夫だよ。運転は好きだし、何よりヒナと一緒にいられて嬉しい」
「なっ!」
さらりと言われて、言われなれていない雪乃は俯いた。
すると、彼女の耳に店内にいる女性たちの声が聞こえてきた。
「ちょっ、あの人かっこよくない? スタイルもいいし、センスもいい」
「ほんとだ。しかも、お金持ちっぽそう」
あの声量で、こそこそ話している気になっているのだろうか?
それとも、女性というのは注目して欲しかったり、気づいて欲しいから聞こえるような声で話すのだろうか。
静かにコーヒーを口に運ぶ朔を、こっそり盗み見た。