記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
7 過ぎ去りし年月




「はー、最高だった」

 足を休めるために入ったカフェで、カフェモカを一口飲んだ雪乃は、感嘆のため息を漏らした。
 都内で一番の書籍量を誇る書店は、まさに彼女の心を癒してくれた。
 すでに七冊の本を買った。中には辞書のような厚さのものもあり、朔の存在はありがたい。

「目当ての本があって良かったね」

「うん、ありがとう。明日から仕事なのに、このあと空港にまで付き合ってもらって大丈夫?」

 自分は運転しないが、いろいろと気を使って大変だろうことは分かる。
 ましてや、本屋にも二時間以上付き合わせているのだから、悪い気がしてきた。

「大丈夫だよ。運転は好きだし、何よりヒナと一緒にいられて嬉しい」

「なっ!」

 さらりと言われて、言われなれていない雪乃は俯いた。
 すると、彼女の耳に店内にいる女性たちの声が聞こえてきた。

「ちょっ、あの人かっこよくない? スタイルもいいし、センスもいい」

「ほんとだ。しかも、お金持ちっぽそう」

 あの声量で、こそこそ話している気になっているのだろうか?
 それとも、女性というのは注目して欲しかったり、気づいて欲しいから聞こえるような声で話すのだろうか。
 静かにコーヒーを口に運ぶ朔を、こっそり盗み見た。
 


< 61 / 176 >

この作品をシェア

pagetop