記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
2 無かったことには……なりませんでした




 家に帰り着くなり、着替えを片手に雪乃はシャワーを浴びた。

 例えイケメンだとしても、赤の他人に触られた可能性があるのだから泣きそうな気分だった。

 一夜限りなんて考えは、一度も想像したことがない。

 言ってしまえば、恋愛すらした事がないから、その先なんてものには縁が無かった。

 そうしてずるずる年齢を重ねていき、雪乃の年齢は現在二十八だ。

 周りも結婚しだし、結婚していない友人達も結婚を意識しはじめた。だが、雪乃は結婚したいと思ったことも無いし、この先結婚出来るとも思っていない。

 そもそも、結婚するには相手が必要だ。

 これまで交際した相手はいない。現在も好きな相手はおろか、男性と接する機会もない。

 雪乃はティーン向けの作家であり、自宅で作業をしていてパソコンでやり取りをしており、たまに会ったとしても担当は女性である。可愛らしい彼女ーー東金朱音(とうがねあかね)の上司は男性だが、そう頻繁に顔を合わせる訳ではない。

 人と関わることが嫌いな雪乃が、どうにか対応できる人数のぎりぎりだ。

 その中に、幼稚園からの腐れ縁であり、隣に住んでいた同い年の卓馬は他人には含まれておらず、彼は異性ではなく家族というカテゴリーに位置する。


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