記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
8 新たな一面



 朔と一日を過ごしてから、二日。
 雪乃は久々に一人きりの時間を満喫していた。

 というのも、次の日から朔は会社に出勤しはじめたから、朝は忙しそうで、夜は遅くまで会社にいるのか、まったくというほど顔を合わせることがなくなった。

 どんな服を着て、どんな会社に行くのかさえ雪乃は知らない。
 たった二日間、一緒にいただけなのに少しだけ寂しい気持ちになっている自分に驚く。
 これまで、十年間も離れていられたのに、朔のことを考えずにはいられない。

 高くなった身長、低くなった声、大人びた表情、嫉妬や情熱が浮かぶ瞳。
 雪乃にだけ向けるようになった優しさは、昔はなかったものだ。

 かつての朔は、八方美人という言葉が似合うような人間で、とにかく敵は作らず、上手く立ち回るタイプで、雪乃はそんな朔を疲れないのかなと思ってしまうほどだった。

 今の朔は全く違う。
 昨日のカフェでの態度をみるからに、意見や嫌悪をはっきりと示すようになっている。
 正直、雪乃にとっては頼もしいと感じるほどに。
 相変わらず卓馬の家のソファーで寛いでいると、スマートフォンから音楽が流れはじめた。
 
「もしもし?」

「ヒナ? 今って大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど? 朔と違って、ソファーで寛いでるんで」

「ははっ、そうか。ならよかった。今夜って、空いてる?」

 交換したばかりの電話番号に、初めてかかってきた朔からの電話は、思いがけないほど胸をときめかせた。
 直接話している時とは違う声の聞こえかたに、息遣いまで聞こえてくるようでくすぐったい。


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