記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
9 羊は隠れ肉食系



 翌朝ーー。
 
 約束の時間より一時間も早くに目が覚めてしまった雪乃は、耳をそばだてていた。
 テレビもつけず、玄関近くの廊下に座り、向かいの玄関の開閉する音に集中する。
 十分ほど経った頃、鍵が開いて扉の開閉音が続いた。
 大きくはないが足音もしたが、こちらの扉の前で少し立ち止まる気配を雪乃は感じた。
 思わず息を殺していると、エレベーターが開くき、閉まる音が聞こえてきて、小さく息を吐き出し廊下の壁に頭を預けた。
 どうするべきなのが分からない。
 昨日のことを思えば、賢い女なら部屋に入ったりしないだろう。
 でもそれは、相手に興味がないか嫌いな場合だ。
 再会当時は、昔の名残が心を守ろうと拒絶していたが、過ごしてみれば何かお互いのすれ違いが生んだ問題だったように思う。
 少しずつ話して、距離を縮めていけばーーと雪乃は思っているが、朔は早急に距離を縮めたがっているのが伺える。
 それでも、雪乃が知っている彼なら、本気で嫌がれば考え直してくれると信じていた。
 もんもんと考えながら、心を決めて寝巻からましな服へと着替えに自室に戻った。
 特に出かける用事がない日は、たいていスウェットのズボンに大きめなトレーナーを着て過ごしているのだが、さすがにスウェットのズボンはないだろうと思い、ストレートのジーンズを雪乃は選んだ。
 他にどんな格好をすればいいのかわからない。
 細くもない、背も低くもない自分が何を着ても様にはならないと諦めて、朔の家のカードキーとスマートフォンを手に家を出た。
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